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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)665号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加嶋五郎、大橋光雄、林大作の上告理由は末尾添付の書面記載のとおりである。

上告理由第一点について。

論旨は、銀座地区所在映画館座席数の五〇・七パーセントを上告人が支配すれば何故に競争の実質的制限となるかにつき原判決は首肯さるべき理由を判示していないと主張するのであるが、原判決は上告人の支配することとなる座席数のみから競争の実質的制限を認めたものではなく、原判示第一、三(四)の(イ)ないし(ニ)の認定事実と上告人のスバル、オリオン両座支配による座席数とを合わせ考え、上告人が右両座を支配するに至れば、その支配は数の上で過半数を占めるばかりでなく、その質においてはるかに重きを加え上告人単独の意思で上映映画をはじめ各般の興業条件を左右することができ、従つて原判示の取引分野における競争が実質的に制限されるものと説示しているのであつて、その判断は正当である。なお、論旨中のその他の主張は、原判決が所論銀座地区を一定の取引分野と判断し競争の実質的制限を認めたことを非難するに帰着するのであるが、この点に関する原審の判断に違法は認められないのであるから所論は理由がない。

同第二点について。

原判決は、それぞれ証拠を挙げて上告人支配映画館座席数並に原判示第一、三(四)の(イ)ないし(ニ)の諸般の情況に関する事実を認定した上、これらを綜合して上告人がスバル、オリオン両座を支配するに至るときは原判示の一定の取引分野において映画興業につき強度の支配力を持つ可能性を有するに至るから、右分野における競争が実質的に制限されるものと判断したのであつてその判断は正当であり、所論のように実質的証拠なくして上告人の主張を排斥した違法はない。

同第三点について。

所論の新橋演舞場及び歌舞伎座の二劇場が将来映画劇場たる可能性を有するか否かは事実問題に外ならず原審は右可能性のないことは顕著であると説示しているのであるから証拠を示さなくても違法ではない。

同第四点について。

公正取引委員会の審判手続は、刑事若しくは民事の訴訟手続ではないから、所論のように厳格な意味の「訴因」若しくは「本案」の問題を生ずることなく、その審判の範囲は審判開始決定記載事実の同一性を害せず且つ被審人に防御の機会をとざさない限り右記載事実と多少異なつた事実に亘つたとしても適法と解すべきである。本件において上告人(被審人)は、被上告委員会の審判手続に際し、丸ノ内、銀座地区が一定の取引分野として狭きに失することを主張しこれより広い銀座支部地域を基準とすれば競争の実質的制限は存しないと抗争し、参考人伊藤義、初田敬の尋問を求めたこと記録上明らかである。従つて被上告委員会が特に開始決定記載の事実に訂正を施すことなく銀座地区における競争の実質的制限につき審決したとしても前段説示の場合に当り違法はないのであるから、右審決を是認した原判決にも違法はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)

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